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技術発表

「雪と仮設」

「建築工事に関する技術体験発表会」平成8年度発表作品

はじめに

湯沢市より国道398号線を繰るまで30分ほど南に走ると、秋田県の観光地では南の玄関と言われ小安峡で知られる皆瀬村があります。

平成8年8月、村当局はもとより、近隣の市町村が待ち望んでおりましたデイサービス・ショートステイ・在宅介護支援センター・ケアハウス・特老と5点セットからなる特別養護老人ホームが完成を致しました。

広大な自然に囲まれ四季を満喫できる高台に建設されたこの施設からは、小学校・村役場・診療所・郵便局、また商店街を望むことができ、村民の方々はもとより他の市町村の利用者の方々にも地域に溶け込むことが出来る利便性の高い環境を備えた場所でもあります。特に眠下にある小学校からは、校庭で遊び廻る子供たちの声が聞こえ、入所する高齢者の方々に活力と、やすらぎのひとときを与えてくれる理想的な環境にあります。

1万7千m²という恵まれた土地に、3800m²の平屋建てで建設されたこの施設平成7年8月中旬に発注され、当社が受注し、平成8年8月末までの2ヵ年事業で、完成をした建物であります。

この施設の建設を担当する職員の構成は所長、施工図係、現場員3名、女子事務員の計6名で8月末に着任致しました。


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冬期間の躯体工事は幾度も経験しておりますが設計積雪量3m、の地域に床面積3800m²、建築面積は4500m²にも及ぶ平屋建ての建物の排雪量面積は建物周囲の面積を計算すると、1万㎡前後にもなり駐車場仮設道路等の排雪を考えると、はたしていくらになるのか、年末には必ず始まる雪との戦いに一末の不安をかかえてのスタートでありました。

その不安が的中し11月初旬の初雪に始まり近年にない大雪に見まわれ、皆瀬村は元より近隣の市町村にも豪雪対策本部が設置されたほどの積雪量となりました。

更に、契約時には年度末は30%の出来高ということで工事を進めてまいりましたが急に国の補助が10%の上乗せとなり、40%という数字を余儀なくされました。

又、7年度は県内に発注された公共事業の建物が多く、特に県南地方は大型の物件が近年になく集中しその多くが、年内又は3月末まで躯体工事を完了する工程になっておりました。そのため躯体工事に従事する職人不足という事態が生じ、当作業所にもその高波が押し寄せてまいりました。

このような重大な3要素のマイナス要因を持ちながら、この事態を解決すべく、まず工程の改訂をいたしました。


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11月中旬降雪時の当作業所の状態は、全体をA~Eまでの5工区に分割して並列作業ですすんでおりABC工区は土間完了、D・E工区は土間工事中でありました。
まず年度末で40%をクリアすることが最大の目標である為に、最初にその問題の解決の協議を行いました。

結果はABC工区の躯体完了、仕上工事着手D・E工区躯体完了、全工区の屋根、防水材料の現場内搬入で40%の数字を確保できることがわかりました。
それぞれの人手不足に対しては、通年出稼ぎに行く方々を農作業が始まる時期まで雇用することを約束し協力を頂き1班を確保しました。又、型枠大工での造作大工の経験者にも、型枠終了後は造作大工を契約していただく事で1班又、冬期間は人手のある土木工事の作業所より大工の手元として協力を頂き、必要とする人数は確保することが出来ました。


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あとは雪対策でありますが、いかに工程通りに工事を進めるかでありますが、一つ問題が持ち上がってまいりました。

当初は年内にABC工区は躯体を完了させC棟だけの養生上屋の予定でありましたが、前述の通り早期の積雪、人手不足により降雪前のコンクリート打設が不可能となり
A工区(800m²)、B工区(1000m²)、C工区(1000m²)
3棟に上屋が必要になりました。
養生上屋は工程通り工事を進めて行く上にも必要でありますが、特に働く職人の方々の作業環境を良くする事により、作業の能率アップを計ると共に、建物の品質管理の面からも必要最小限な設備でもあります。
その点から必要な機能を確保し、いかにローコストで安全に作業することの出来る上屋を計画することに主眼がおかれました。

養生上屋は一般的には型枠建て込み前に立てるのが通常でありますが、今回はスラブ型枠完了後その上に組み立てるという施工方法で計画いたしました。
型枠スラブ上に特注の勾配ベースプレートから各スパン2.5mピッチで単管で骨組みをし、屋根の軽量化を計るために根太にはアルミ足場板を(@500)利用し、その上に土間シートを敷き、サン木で押さえるという簡単な物であります。また、屋根上の雪は3寸5分勾配で滑り落とすという事で屋根荷重を最小限と致しました。

型枠支保工の積載荷重には仮設荷重、風圧力そして安全を期して積雪荷重(50cm)を計上し計画いたしました。
風圧力の負の力は柱頭の鉄筋、又は梁筋等によりチェーン引きとして対応いたしました。


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上屋でいつも悩まされている事は採光でありますが、以前に小規模建物で土間シート一枚という、今回と同じ条件での上屋架設を経験しており、安全面で問題も無く雪もすぐ滑り落ちることが経験上確認されており、今回も採用となりました。
上屋にかかっている20日間ほどの間で屋根の除雪作業は、AC工区はゼロ、入隅部分のあるB工区でも2人で半日程度1回で済みました。

3寸5分勾配の危険な切妻屋根の通行及び作業は、滑り易く特に冬期間という事で大変危険な要素を持っております。
それを解消すべく棟の部分を設計事務所の構造担当の方々と協議を行いスラブ型枠を300~500水平にする事に依り、安全通路は元より作業能率の向上に重要な役割を果たしてくれました。

養生上屋の利点・欠点
利点 欠点
1.作業床が低く組み立て作業が安全である 1.スラブ完了迄雪の中での作業である
2.仮設資材が少なくて良い 2.スラブに荷重がかかる
3.労務費が少ない 3.連日の排雪が必要
4.採光がとれる 4.柱、壁、梁の型枠内に雪が入る
5.ローコストである  

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それでは、欠点であります型枠内部に入る雪対策に付いて触れてみたいと思います。

上屋をかけるまでは連日の雪でありました。柱建て込み後柱頭をすぐ養生し梁・スラブと作業を行いスラブ完了後、梁スラブ上の排雪を行い梁及び壁部分の開口部を、ベニヤ等でフタをして上屋作業にかかります。
完成後に、梁、壁、柱の雪養生のベニヤを撤去致しますが、多少の雪は型枠内部に残っております。柱壁は、下部に開口部を設けてスチームクリーナーで上下より消雪を行いますが、梁は梁底の断熱材を後貼りにする事で、内部からの採暖により100%の雪を排除することが出来ました。
しかし雪が解ける事により生じた水が床を凍らせ、床全体がスケートリンクの様になり、作業はもとより通行するだけでも支障をきたす危険な状態になってしまいました。最近は塩分がほとんど含んでいない融雪剤が開発されており、それを床に散布して氷を溶かすことにより解決いたしましたが、次の朝までには再び凍るといういたちごっこの様な日が続きました。

その間にも、柱内には水道管の凍結防止のヒーターをいれ、柱、壁の脚部は再びスチームクリーナーを使用しての氷の除去、塩分をほとんど含んでいない融雪剤は本当に安全なのか不安の中の塩分測定、メーカーへの問い合わせ、又果たしてコンクリート強度に影響がないかという疑問からのテストピースでの圧縮強度試験と、色々試行錯誤を重ねてまいりましたが、今回は原点にたちもどり、凍らせる元を絶つことが最良の方法であると、決断を致し排水作業を行い、土間を採暖乾燥させた後に、コンクリート打設を行いました。時期的にも余裕がありませんでしたが、いまになっても良い方法が他にあったのではと心残りです。


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次はD工区の土間配筋時の雪対策でありますが、連日の雪の中D工区の土間配筋を行った訳でありますが、配筋前と配筋後はブルーシート等で養生可能でありますが、作業中の雪はどうしても鉄筋の中に入り込みます。土間はウレタンフォーム50mmが敷き込まれておりスチームクリーナー・ガスバーナー・灯油ボイラーの設置、人海作戦と色々な消雪方法を行っても完璧には鉄筋内部に入り込んだ雪を、排雪、又消雪する事が出来ず早出までして協力して頂いた作業員の努力の甲斐もなく土間コンクリート打設当日中止という事態が生じました。

スチームクリーナー・灯油ボイラーでは湯量が一時間あたり1~2トン程度で湯量の不足が原因と思われ、湯を大量に確保するためにコンクリートミキサー車で熱湯を運搬しそれをポンプ車又、水中ポンプ等で散布する事に依り容易に消雪する事が出来、多くの人達に協力を頂いた土間のコンクリートも無事打設する事が出来ました。又コンクリートポンプ車も、ミニポンプ車はスクイズ方式でありお湯の圧送は可能でありますが、大型のポンプ車はピストン方式であり、お湯の圧送が不可能な形式もあるということもわかり又一つ勉強になりました。

雪、仮設養生上屋、人手不足、年度末出来高等、色々な問題を抱えての冬期間の工事でありましたが、協力会社の多くの皆様の協力を得まして、工事も順調に進み、又養生上屋も機能を十分に発揮し計画通りコンクリートを打設する事が出来、3月末には出来高の40%を確保することができ、県の年度末検査も無事通過する事ができました。

 冬の間の10%(出来高30~40)の頑張りが、竣工までの仕上工事に十分な時間を作り、私としてはお客様に満足のいく建物を引き渡すことができたと思います。

10月1日のオープン以来入居者の方々も順調のようです。

メンテナンスで行ったおりに施設の方々に広々として使いやすく大変ご苦労さんでしたと言われたときは、冬期間の辛い時間での工事を忘れさせてくれました。

最後になりますが、建物は仮設で始まり、仮設で終わると古くから言われております。
建設業界の3Kのなかで代表的なKは危険だと思います。
その危険の要因を一番抱えているのが仮設ではないでしょうか。

最近時短の関連記事が活字となって目にとまり、又耳にしますが私がこの建設業界で3Kの一つと言われておる危険は仮設がその要因を多く抱えているものだと思います。中小規模の建物の工期は私がこの業界に入ってから今までの間、RC造、S造、木造、とそう大差がないように思われ、時間だけが詰まってきたように思われます。


終わりに

工期期間が少ないと造る事が先行してどうしても、仮設が疎かになりがちであります。
今回の仮設養生上屋はスラブ型枠上からの仮設であり危険度は多くありませんでしたが、スラブが出来るまでは必ずしも安全作業であるとは言えない場面もありました。
降雪時を問わず、仮設のしめる重要性を設計者、受注者、発注者、三者が改めて認識しなければならない時代になってきたと考えられます。

今回の除雪を含め冬期間の仮設関係に使用した費用は¥2,300万円、受注額の3.25%になります。
今後特に冬季にかかる工事につきましては、設計発注機関におきまして、十分な安全に仮説費を盛り込んでいただきますよう、お願い申し上げる次第であります。
余談となりますが、北海道地方の冬期間の工事は全天候性仮設上屋での作業が通常と聞いております。当地方でも早い時期にその日がくる事を期待し私の体験発表と致します。

※この文章は平成8年度、 「建築工事に関する技術体験発表会」 にて発表した当時のまま掲載しております。
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