「建築工事に関する技術体験発表会」平成7年度発表作品
今回施工体験として発表する施工建物は、着工平成7年7月26日~平成9年3月31日までと、ただいまも建設途中の建物です。(※)
立地環境は、稼働中の既存建物に最小で2mまで隣接していますが、郊外なので周囲は、水田が続いています。前面道路は雄物川の堤防道路のになっており春は桜並木となり、手前に雄物川、遠くには鳥海山を望むことが出来る、現場環境としては、のびのび仕事が出来るような立地条件です。
施工建物は、湯沢雄勝広域圏のし尿処理施設で建築面積が3,075m² 一部地階の2階建で、構造は処理層部分はRC造と上屋部分についはS造です。
以下建築概要は下記の概要表の通りです。
工事名称: | 湯沢雄勝広域市町村圏組合 し尿処理施設建設工事 |
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工事場所: | 湯沢市関口字川前35地内 |
工事期間: | 平成7年7月26日~ 平成9年3月31日 |
発 注 者 : | 湯沢雄勝広域市町村圏組合 |
設 計 者 : | 日本技術開発株式会社 |
工事内容: | 処理棟 |
建築面積 3,075.0m² | |
延べ面積 3,889.2m² | |
管理棟 | |
建築面積 373.6m² | |
延べ面積 557.5m² |
序文でもふれましたが、既存施設の解体に伴った改修工事やプラント設備の試運転等を盛り込むために、建物工期が厳しいものとなり、工程中における日数の短縮が検討課題となりました。
そこで、処理層のコンクリート打設を「2回で打設するか、1回で打設するか」を検討する事にして、工期の短縮=コストダウンを考えVE効果表を作成してみました。
表より「1回打設」では「2回打設」よりも工期の短縮をはかれますが、コスト的に見ますと、「CD2.67%」で期待した程のコストダウンにはならないのがわかりました。
しかし、VE効果にはコストを下げ、機能を向上させる事を目的とする場合と、コストを一定にして機能を向上させ価値(品質)をあげる場合とがあるので、表にあげた諸問題を検討しながら、高さ6m、床面積1,511.4m²の処理水槽を1回で打設して建ち上げる事にし、現場スタッフ一丸となってVE活動に取り組んでみました。その経過と諸結果をまとめてみました。
処理層躯体の最大品質目標は寸法的精度の高さもさることながら、最も重要なのは高い防水性によるものだと考えます。
図1のフローチャート上での「ジャンカ(豆板)」最大のマイナスになるもので、これを管理することにより良い結果を得られることが分かりました。そこで「ジャンカ(豆板)」の発生要因図を、図2で表しそれにより発生要因を検討した結果を記述します。
要因図により以上の5項目が重点管理事項と分かりました。
以下この5項目についての対応策を説明してみます。
打設数量が 1,350m³と多く、50m³/hで打設を行っても、27hも掛かってしまいます。
そこでポンプ車は、3~4台は必要になってきます。しかし、作業員数及び管理上を考慮して3台としました。その結果3×50h=150m³/hとなり、作業は9時間となります。
開始時刻を6:00とした場合昼休みを入れても 4:00までは終了する予定をたてました。
生コン車のサイクルタイムは積み込み時間が約3分で運搬時間が約3分、合計6分/1台となり配車は、16台を計画するとポンプ車台数と生コン車のサイクルタイムからして途切れない打設が可能になり、コールドジョイントの発生率を下げる事が出来ました。
打設範囲が広く各層ごとの各壁もあり、コールドジョイントが発生するおそれが十分に考えられました。そこで3台のポンプ車を打設箇所を分け打ち込みサイクルを早める事にしました。又、区分を処理層に重点を置き、2区画とし、3台のポンプ車で順次打設を行い、打ち継ぎ時間の間隔を短くするようにしてみました。
今回一番の問題になったのが「コンクリートヘットが高い」という問題でした。
一般断面図で表すように、下部より3.6mまで化粧枠を使用しており、その中での打ち継ぎは避けたいと考えていましたので、打ち継ぎは化粧型枠部 天端上の4mとし、残りの2mの2回打ち継ぎと決めました。ただし、1回目のコンクリートヘットが4mとなると型枠にかかる側圧が 4.6t/m³となりますので支保工関係の数値は計算により表のようにしました。
内バタピッチ | 外バタ ピッチ | セパレーター ピッチ | 備 考 | |
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壁 | 25cm以下 | 45cm以下 | 45cm以下 | セパレーターø9m/m |
腰高さが6mなのでスラブ上から直接打ち込みを行うと、分離してしまい豆板が出来るのを十分に予測でき、その対策としてコンクリートの流れを良くする為に、壁のコーナー部を図の様に隅切したヶ所より、打設ホースを壁下部まで下げ打設するようにしてみました。
又、コンクリートの投入に先立ち、モルタル(1:3)を、20~30cm程度ないなる様、壁底部び流し込み、分離による壁根廻りの豆板を防ぐ様にしてみました。
外部廻りGL+1,800までを腰壁として石積調の化粧型枠を使用していますが、打設中にノロの流入により、ハガレたり、骨材等により傷付事などが考えられ防止対策を検討した結果、次の方法を取ってみました。(図-4)
以上の様な施工方法を実地したところ発泡剤の破損及び化粧枠のハガレ等の不良ヶ所は、施工延長270m中1ヶ所もなく、100%成功する事が出来ました。
改善案の長所・短所 | 改善案の問題点・注意点 |
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結果としては、目視によるところで、処理層内部に数カ所の豆板を確認しました。
原因として考えられるのが下記の2点です。
また、各管理目標を数値で表してみますと下記のようになりました。
管理事項 | 2回打設 | 1回打設 |
VE管理 CD率 | 2.67% | 2.67% |
省力化率 | 27.80% | 38.22% |
工事日数 | 61日 | 48日 |
QC管理 | ||
仮称型枠不良率 | 0% | |
CON打設不良率 | 0.22% |
※省力化率が上がったのは、工事日数減少による 作業員の人数が減った為と考えられます。
今回私たちが、今までのデータをもとにして、ちょっと背伸びをした感じはありましたが、VEを行ったということを長々と記述しました。
「そんなことは、何処の現場でもやってるヨ」と言われそうですけれども、従来の「どこの現場でもやっている」現場管理に新しい手法を取り入れて管理してみる事は、これからもますます必要になってくるのではないでしょうか。そして、私達も日頃からそのように思っていたところ、今回その機会があったので取り組んで見ました。
そこで、QCとは VEとは 本では、分かっているつもりの物が実際に取り組んでみて、ちょっとではありますが、分かった様な気がしています。 今後は単に「現場の工夫」としてすませていたものをコスト下げ、機能を上げ価値(品質)をあげるいわゆる「VE活動」を行い、数値に表すようなことをこれからも、取り組んで行きたいと考えています。
しかし、統計的データの管理だけにとらわれるのでは無く、現場の職人さんの経験・勘による部分も大切にして「人が造る建物・人が使う建物」と言うことを大事にして行きたいと思います。
※この文章は平成7年度、 「建築工事に関する技術体験発表会」 にて発表した当時のまま掲載しております。
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