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技術発表

『冬季養生と上屋について』

「建築工事に関する技術体験発表会」平成6年度発表作品

はじめに

 当県、特に県南部は日本有数の積雪地帯であり、今回施工に当たりました湯沢市は、特別豪雪地帯に指定されており、昭和48年には平均積雪深236cm、累計1258cmを記録しております。
 昨今工事の大型化、発注時期の遅れ等により、躯体工事の冬期間施工が余儀なくされております。
 今年の工事も12月末に発注され、2年度事業となるために出来高の関係上、冬期間に躯体工事を施工せざるをえない状況となり、コンクリートの品質確保の上にも養生上屋を架設する事になりました。
 尚、同時期に土木工事も行われましたので、併せて報告致します。

 今年の累計積雪量は302cm、最深積雪量64cmと、例年に比較すると少なめでしたが、平均風速が10m/sec前後と風が強い現場であり、最大瞬間風速が20m/secを越えた日が幾度とあり、風にも悩まされた工事でありました

S55年からH3年の平均最深積雪量
11月 12月 1月 2月 3月 4月
平均最深積雪(cm) 14.9 38.3 93.2 103.1 78.6 14.9
今年の気象データ
11月 12月 1月 2月 3月 4月
最深積雪(cm) 0.0 28.0 55.0 64.0 47.0 0.0
平均最高気温(℃) 12.1 4.1 0.3 2.5 3.7 14.1
平均最低気温(℃) 3.5 -1.8 -6.2 -3.3 -3.0 1.0
平均気温(℃) 7.6 0.9 -2.6 -0.4 0.0 7.3
平均風速(m/s) 7.8 8.7 1.4 9.1 7.9 7.3
最多風向 NW NW NW NW NW S

工事概要

工 事 名 : 湯沢市終末処理場建設工事
工事場所: 秋田県湯沢市新川原地内
工期: 自 平成5年12月25日~ 至 平成7年 3月15日
発 注 者: 日本下水道事業団
工事内容: 管理棟 RC3階建
建築面積  671.83m²
延べ面積 1112.53m²
 
管廊階段室
RC造地下1階 地上平屋建て
建築及び延べ面積 17.28m²

養生上屋の施工

屋上養生の検討

養生上屋を施工することに当たり、次の事項について検討を行い、養生上屋の形状及び構造を決定しました。

  • コンクリートの品質を確保する養生が可能なこと
  • 養生上屋施行後雪下ろしの手間が省けること
  • 全天候型であること
  • 建設物の形状に促し養生上屋の形状が自由に出来ること

以上の点を踏まえて検討した結果二つの工法があげられました。
一つは、架台部分にペコガーターを使用し屋根材には万能鋼板及びタキロンビニールトタンを使用し、支持架台は外部足場に取り付け、内部スパンはたわみを考慮してスパン中央にH型鋼の柱を建て上部にH型鋼の梁を流して取り付ける、陸屋根構造のものであります。(土木工事採用) 
もう一つは単管を用いて外部足場(枠組み足場)を使用して内部に1500~2800の間隔でステージ状に組み、内部足場併用として建築物の形状と同様な勾配屋根のものであり、屋根材には型枠用合板を使用したものであります。
以上の二つを比較してみると……

  ペコガーター工法 パイプステージ工法
長所 1.全天候型である 1.全天候型
2.転用が出来る 2.内部足場として使用できる
3.レッカー作業が出来、人員がすくなくてすむ 3.雪降ろしが不要
4.コンクリートの品質確保 4.コンクリートの品質確保
  5.形状が自由に出来る
短所 1.内部足場が必要(搬入が難しい) 1.作業能率が悪い(多数の鳶が必要)
2.雪降ろしが必要(親綱等安全設備) 2.レッカー作業(搬入が出来ない)
3.レッカー作業が出来ない(搬入が出来ない) 3.大量資材が必要
4.形状に難点、自由に出来ない

以上二つの工法に付いて比較検討を行い、最終的には雪降ろし作業が不要、形状が自由に出来、しかも内部の単管を利用して内部足場も併用できる点を考慮して、後者のパイプステージ工法を採用することに決定しました。
尚、屋根材として利用する万能鋼板からの結露及び鋼板ジョイント部分からの雨漏りがコンクリートの品質及び作業空間の快適性を損なうのではないかという意見や、陸屋根工法とすると高さが15mを越える架設上屋となるので風圧に負けるのではないかという意見により、ペコガーター工法の採用にはGOサインが出せない状況であった事をつけ加えておきたいと思います。
またパイプステージ工法を採用するにあたり、次の項目を要点としてあげました。

  • 屋根の雪が自然落下する勾配を考慮するとともに、建築物の形状に促した勾配の4/10程度の切妻屋根として妻側には材料が出し入れしやすい作業架台を設ける。
  • 屋根の雪が一層滑り易くかつ雨漏り防止の為を含めて屋根全体にポリエチレンシート(ア)0.15を敷き込むと同時に、押さえに使用する瓦棒も巻き付ける。
  • 落雪が外部足場に影響を及ぼさないように外部足場より300mm程度の庇を設ける。
  • 内部を単管パイプでステージ状に組み上げる際に、内部足場として利用出来るように縦地パイプ等を計画的に配置し、外部は枠組み足場を組み、スラブ上端より2000mm程度高く施工する。

2.作業性能について

次に養生上屋を架設した1F躯体時の養生上屋内での型枠・鉄筋工事と養生上屋を撤去後の2F躯体時の型枠・鉄筋工事における作業性に付いて検討してみました。

  鉄筋工事 型枠工事
1F 217.0Kg/人 5.8m²/人
2F 382.7Kg/人 5.8m²/人

当初から懸念されていました作業性能についてですが、養生上屋内での1F躯体施工においてはレッカー作業が行えず材料の搬入、取り出し及び梁揚げ等がすべて手作業に頼らざるを得ませんでした。しかし、養生上屋内部での作業なので天候に左右されず快適に作業する事ができました。
実際に数値で表しますと鉄筋工事で約33%、型枠工事で23%の作業能率の低下として現れましたが、養生上屋を架設せずに施工した場合には材料の養生、除雪等で作業時間の低減や日々の天候の変化により作業性の均一が得られない、行き当たりばったりの工程を考えればまずまずの作業性であった様に思います。


3.問題点及び今後の検討

今回養生上屋を架設して1F躯体を施工しましたが、問題点及び改善点として次の4項目について考えてみました。

  • 内部での作業性
    今回養生上屋の構造としてパイプステージ工法を採用した結果、内部足場兼用及び枠組み足場による外部足場としての利用等設備の面からは有効に活用されましたが、単管パイプが1500~2800mm間隔で設置されている関係上、作業空間が狭められ、鉄筋予備型枠材の長物等の振り回しが十分に出来ず余分な労力を使う結果となりました。
    また、外部シートは透明シートと兼用する事により多少の 採光は得られた訳ですが、型枠材の建て込みやスラブ型枠を取り付ける場合、照明の盛り替え作業に労力を要しました。
    また、屋根材を型枠用合板としたため天空よりの採光を期待出来なかった事も作業性を低下させた要因と考えられます。
    以上の事より今後の課題として作業能率を工場させる為には内部空間を大きくとれる構造(ペコガーター工法)とし、しかも低コストで強風に耐える構造及び形状を検討していく必要があるように思えます。
  • 材料の取り込み
    材料の取り込み方法として1F床上の作業時には各面に搬入口を設け、そこから材料の取り込みを行い、2Fスラブ上の作業時には両妻側に荷揚げステージを設け、そこから材料の取り込みを行いましたが、どちらも人力作業に頼る事しか出来ず、作業性能を低下させています。
    また搬入口等の開口部をあまり大きく造ると雪の吹き込み等で養生上屋の撤壊の原因にもなりますので。限られた開口部しか利用出来ないのもやむを得ないのかもしれません。
    養生上屋故にレッカー作業が出来ないのは予測していましたが、今回のように勾配屋根として屋根に雪が積もらない構造とした訳ですので屋根の一部が取り外し可能で資材等の搬入が可能であるような構造が出来れば作業能率の向上につながると思います。
    しかしポリエチレンシート等、滑りやすい材料を使用しているため、屋根に登るための安全設備を併せての検討及び改善が必要となってきます。
  • 施工費
    今回の施工費を簡単にあげますと
    材料費 賃貸料(枠組み足場・単管足場 他、60日) 1式 300,000 円
    基本管理料(枠組み足場・単管足場 他) 1式 100,000 円
    運搬・荷揚げ費 1式 200,000 円
    購入費(型枠用合板・さん木 他) 1式 1,300,000 円
    諸雑費(番線・釘 他) 1式 200,000 円
    組立・解体費 施工費 1式 2,450,000 円
    機械費(高所作業車 他) 1式 300,000 円
    補修・維持費 1式 150,000 円
         
      合計 5,000,000 円
    また、別の角度より土木工事で採用したペコガーター工法と比較しますと、
    養生上屋による空間体積 6,420m³ (土木 4,470空m³)
    養生したコンクリート体積 600m³ (土木 1,800m³)
    土木工事においては2度の転用を含んでおりますし、コンクリートの使用料についても建築と土木の構造物では一概に比較・検討は出来ませんが、養生上屋を空当たりで考えた場合、約780円/空m³、土木の場合で約850円/空m³、木工事に養生されたコンクリートの養生費として考えた場合約8,300円/m³ 土木の場合で約7,000/m³という数値が出ました。
    冬季養生上屋だけに対してかけた費用はコンクリート材料及び打ち込み代の5割強という莫大な数値となった事が明確になりました。それ故に工事着工に際して施工にこの点をアピールし、設計段階あるいは計画段階で十分に両者協議・検討を行い、余裕のある予算計上が出来るよう努力する必要があると思います。
    前述しましたが、養生上屋内での作業性能の低下により施工費の増加が伴って来る事も付け加えておきます。今後の課題として施工費を低減するポイントについて次の項目を検討して行きたいと思っております。
    • 構造を単純化して施工人工の低減をはかる。
      養生上屋のパターン化を促し、誰にでも組立可能な材料等の研究
      →利用回数の問題
    • 機械作業を利用し、施工能率の向上を図る。屋根材のパネル化・梁材の形状等の研究
      →運搬及び補助足 場の問題。雨漏り・雪及び風の吹き込みの問題。
    なお、今回は敷地が広く、落雪等の除雪に付いてはあまり経費がかかりませんでしたが、市街地におきましては除雪費の低減を図るとともに、消雪の問題も関連してくるように思います。
    以上の事項を検討・改善して行けばかなりの施工費の低減を図れると思いますが、施主と検討・協議の上出来るだけの冬期間の躯体工事(コンクリート工事)を行わずに工程等の調整、工期の設定を促す努力が一番の施工費の低減につながると確信いたします。
  • 屋根の構造
    今回の屋根の構造としては4/10程度の勾配屋根とし、単管パイプで骨組み施工をし、その上にさん木を番線等で結束し、型枠用合板(ア)12釘止メし、かつポリエチレンシート(ア)0.15を前面敷き詰め、表層のポリエチレンシートをさん木にて瓦棒状に止メ、軒先にもポリエチレンシートを巻き込み、さん木止めた訳ですが、当地域は豪雪地帯に加え強風地帯であったために、さん木が多少はずれて手直し・補修箇所がりましたが、全天候の作業空間を冬期間に得る事が出来ました。また外日には養生シートとして透明シートを張ることにより採光をある程度得ることが出来ましたが、上部作業におきましては型枠用合板を屋根材として使用したために日中でも照明設備の設置が余儀なくされました。天空からの採光についても材料等を考慮して行きたいと思います。土木工事においてタキロントタンを使用して採光を得る構造としましたが、強度的に問題があり、強風による破損個所がありました。
    補足となりますが、内部において支柱を単管パイプをスラブ貫通させたため、その補修費も必要となりました。
    以上の事から、屋根材として次のことを以下に満足できるかという点で、今後さらに検討する必要があるように思えます。
    a.ある程度の積雪・強風に耐えられる事(材料及び構造) ・・・耐久性
    b.採光性・遮水性に優れていること       ・・・機能性
    c.低コストで利用出来ること(需要にもよる。また、転用性) ・・・経済性
    d.組立解体が容易である事(パネル等の規格化、レッカーの利用) ・・・施工性
    以上の4項目について、今後とも研究・検討を重ねてよりよい養生上屋の施工が出来るようにして行きたいと思っております。

あとがき

以上の様に今回施工した冬季養生上屋について述べて来た訳ですが、冬季の躯体工事においてコンクリートの品質を予定通りに確保出来たことは幸いでした。しかし、率直に言って養生上屋にはまだまだ検討課題が残るものとなりました。今回建築工事・土木工事において異なった2種類の養生上屋を施工した訳ですが、それぞれの長所・短所を吟味した結果、よりよい施工が出来るよう、今後検討を重ねていく次第です。

尚、今回計画・施工しました養生上屋についてのポイントとして、

  • 構造物に適した形状とする事
  • 内部の作業性を良くする事
  • 架設構造物であるが故に無理・無駄のないものとしていかなければならない事

の、3点があげられると思います。

官公庁における物件については、発注の関係上、冬期間の躯工事の施工が今後とも余儀なくされ、養生上屋の施工についても重要視されてくる様に思えます。企業として成り立って行く為に、利益追求と言うことも必要と共に、構造物の品質確保の追求の為にも今後とも養生上屋についての研究・検討を続けて行きたいと思っています。

今回の発表が、今後皆様が冬季施工される現場の養生上屋の施工において少しでも参考になれば幸いと思っています。
雪国で生活していく上で雪との戦いは避けては通れません。雪に負けずにより良い構造物を皆様と造って行こうと思っています。